この2年間、人工知能は常にニュースの主役であり続けています。生成AIの革新的な進歩から、人間のように会話するチャットボットまで、その話題はもはや避けて通れません。しかし、現実はそれほど華やかではありません。MITのProject NANDAが発表した最新レポート「The GenAI Divide: State of AI in Business 2025」によると、生成AIプロジェクトの95%が、企業が期待する "ROIを達成できていない" ことが明らかになっています。
CIOやビジネスリーダーにとって、今はまさに重要な転換点です。AIは確かに変革をもたらす力を持っていますが、その変革は決して容易なものではありません。ではAI導入で成果を上げる企業と、そうでない企業を分けるものは何なのでしょうか。
本記事は2部構成のうちの第1回として、AIプロジェクトが停滞する理由と、DX(デジタルト変革)からAIエージェント変革への進化、そして、AIブームを越えて実際にビジネス価値を生み出す鍵となる"連携と自動化"の役割について掘り下げます。
本稿は、Boomiのイノベーションプログラム上級マネージャーであるパトリシア・ムーア氏がホストを務めたLinkedIn Liveセッションを基にしています。セッションには、Boomi CEOのスティーブ・ルーカス氏とBoomiのAI&プラットフォーム部門シニア・バイスプレジデントであるクリス・ハレンベック氏が登壇 。MITの調査結果を踏まえ、AIパイロットプロジェクトの段階をどう乗り越え、Boomiの連携と自動化プラットフォームを活用して実際にROIを生み出すかについて議論が交わされました。
AIの現実:ROIを実現できる企業はごくわずか
今回の議論の中心となったMITの調査は、決して表面的なアンケートではありません。複数の業界にわたり、経営層150名へのインタビューおよび企業レベルでの調査300件を実施した、非常に本格的な研究です。その結果明らかになったのは、AIの可能性自体は確かに存在する一方で、実行段階では大きく後れを取っているという厳しい現実でした。
この調査では、ROIの達成を妨げる主な要因として、以下の3つが挙げられています。
- 連携:AIエージェントが真の力を発揮するためには、リアルタイムで高品質かつ接続された企業データへのアクセスが不可欠です。
- ワークフローの自動化:多くのAIパイロットプロジェクトは、実際の業務プロセスに組み込まれないまま孤立しており、その結果、実用的な価値を生み出せていません。
- 教育:多くの組織が、AIで「何が本当にできるのか」を正しく理解できていないという課題を抱えています。
もはやAIの課題は「チップ」や「モデル」にとどまりません。今の真の課題は、データをつなぎ、ワークフローを連携させ、AIをスケールで実用化することにあります。
DX(デジタル変革)からAIエージェント変革へ
この約20年間、DXはIT企業の世界で掲げられてきた指針でした。初期の段階では、紙の業務プロセスをデジタル化する、いわばアナログからデジタルへの移行を意味していました。その後、DXは進化し、「決定論的でルールベースなプロセスをソフトウェアによって効率化する=自動化」を指すようになりました。
しかし、この決定論的ロジックには限界があります。スティーブ・ルーカス氏は次のように説明しています。
- 決定論的なシステムは、「if/then/else」という明確なルールに基づいて動作します。
- 一方で、AIは確率的な推論を可能にし、ルールでは処理しきれないグレーゾーンの判断を行うことができるのです。
AIエージェント変革の時代が到来した今、企業は厳密にコード化されたプロセスに頼るのではなく、次のような能力を持つAIエージェントを導入できるようになっています。
- 例外に柔軟に対応する
- 曖昧さを処理できる
- 過去の文脈から学習する
- 新しい入力に適応する
AIエージェント変革とは、単に業務をデジタル化することではなく、ワークフローそのものを再構築する発想です。これは、給与計算のような決定論的プロセス(ルールに基づく処理)と、経費承認のように確率的な判断を要する業務を組み合わせることで、組企業はより高い俊敏性と効率性を実現できます。
AIブームと現実:AIエージェントの本質を見極める
近年、AIエージェントをめぐる議論はかつてないほど盛り上がりを見せています。多くのベンダーが自社ソリューションに「エージェント型」や「エージェンティック」という言葉を冠していますが、実際に企業レベルで活用可能な機能を提供しているのは、ほんの一握りです。
この過剰な熱狂がかえって混乱を招いています。エージェンティックAIとは、ただのチャットボットなのでしょうか?それとも、少し高性能なアシスタントにすぎないのでしょうか?あるいは、それ以上の何かなのでしょうか?
現実として、真のエージェント型システムとは、AIエージェントを標準業務プロセス(SOP:Standard Operating Procedures)に組み込み、安全にシステムへアクセスし、文脈に基づいて情報を取得し、ワークフローの次のステップを自動的に実行できるようにすることを指します。
これは、過熱したマーケティングチームの夢物語ではありません。むしろ、企業の業務プロセス全体を再構築し、根本から再定義する取り組みなのです。
多くのAIパイロットプロジェクトが失敗する理由
それでは、なぜ多くのAI試験導入が失敗に終わるのでしょうか。そこには、共通するいくつかの典型的な問題があります。
- カスタム開発による(過剰)負担:エージェントをゼロから構築するには、Pythonによる開発、APIの連携、セキュリティ層の実装など、数週間にも及ぶ作業が必要です。ようやく動作した時点で、すでに時代遅れになっています。
- スケーラビリティ欠如:概念実証(PoC)がうまくいっても、企業規模での本格展開に耐えられないケースが多く見られます。
- セキュリティの見落とし:パイロット段階では、プロンプトインジェクション対策、暗号化、監査ログといった企業レベルのセキュリティ要件が軽視されがちです。
(プロンプトインジェクション攻撃とは、攻撃者が意図的に誤解を招くテキストを生成AIモデル(LLM)に入力し、不正な挙動を引き起こすセキュリティ上の脅威のことです。)
その結果どうなるか?企業はパイロット段階で立ち止まったままになってしまいます。AIのデモには感銘を受けながらも、本番環境への導入に踏み出せない状態に陥るのです。
前進するためには
AIエージェント変革を進めるには、次の要素が欠かせません。
- リアルタイムかつ高品質なデータとAIを結びつける連携プラットフォーム
- AIを業務プロセスに組み込むためのワークフロー自動化
- スケール拡大と規制遵守を支える、エンタープライズレベルのセキュリティとガバナンス
これらは、単なる「あれば便利な要素」ではありません。むしろ、AIのパイロット段階を本番運用へと進化させるための基盤そのものなのです。
また、ライブ配信全編はオンデマンドでこちらから視聴可能です。さらに、ビジネスを拡大させる際には、 Boomi Agentstudioを活用し、AIエージェント導入におけるリスクとリターンの最適なバランスを戦略的に見極めましょう。