ここ1年ほどで「AIエージェント」が大きな話題となっています。私は世界各地のカンファレンスやワークショップに登壇し、その活用方法についてお話ししてきました。そこで私はいつも、「エージェントが何なのか、今はまだ分からなくても大丈夫ですよ」と伝えています。実際、ほとんどの人がまだ正しく理解できていないからです。この言葉を聞くと、会場の皆さんの表情がパッと明るくなり、安心されるのがよく分かります。
エージェントといっても、実はそれほど難しいものではありません。一言で言えば、かつて私たちが「コンピューター・プログラム」と呼んでいたものの進化形です。ただし、これまでとは決定的に違う点がひとつあります。それは、これまでのソフトウェアにはなかった「自分で判断して、自律的に動く」という点です。
この「自分で考えて動く力」があるからこそ、エージェントは単なるソフトを超えた役割を果たします。いわば、自ら判断して動く「動的な連携システム」です。エージェントは指示を受けると、AI(言語モデル)や各種ツール、過去の記憶、さらは他のエージェントも自在に組み合わせ、状況に合わせて最適な処理を自動で行ってくれるのです。
エージェントがビジネスや私たちの生活を大きく変えると言われている理由は、まさにここにあります。皆さんはすでにChatGPTやGemini、Claudeといったチャットツールを使っているかもしれません。また、SiriやAlexaなどの音声アシスタント、Google マップのようなナビアプリを通じて、知らず知らずのうちにエージェントの力を借りているはずです。しかし、それらはまだ氷山の一角にすぎません。あらゆる業務を自動化し、効率を最大化するというエージェント本来の力は、これから本当の進化を迎えようとしています。
この連載の目的は、AIエージェントに対する難しそうという先入観をなくし、エージェントとは一体何か、何ができるのか、そして「エージェントによる変革(エージェンティックトランスフォーメーション)」によって私たちの生活がどう変わるのかを分かりやすくお伝えすることです。エージェントの基礎を学ぶための入門編として、全4回のシリーズを用意しました。内容は以下の通りです。
- エージェントの定義と自律性について
- エージェントの自立性のレベル
- エージェントが使うツールとは?
- AIを正しく安全に管理する方法(AIガバナンス)
これは「AIエージェントの教科書」の決定版です。それでは、第1回から始めていきましょう。
AIエージェントの正体とは
これまでの数十年間、ソフトウェアは人間が書いたコードというルールに従って動くものでした。その基本は「もし〜なら、こうする」という条件分岐の命令を積み重ねたものです。プログラマーは、起こりうるすべてのパターンを予想し、膨大な量のコードを書き込む必要がありました。
AIエージェントもソフトウェアの一種ですが、大きな違いは受け身ではないという点です。エージェントは自ら判断して行動します。デジタルツールを使いこなしてシステムやデータにアクセスし、内蔵されたAI(大規模言語モデル)を「脳」として使うことで、文脈の理解や学習、記憶を行います。設定されたルール(ガードレール)の範囲内で、与えられた目標に向かって自分で動いてくれるのです。
一つひとつ細かな指示を与える必要はありません。エージェントは「何を目指すべきか」という目的を与えられると、それをどうやって達成するかを自ら考えます。人間には処理できないような膨大なデータを瞬時に分析し、最適な解決策を見つけ出す柔軟性も持っています。
だからこそ、エージェントは製造、カスタマーサービス、物流、小売、医療など、あらゆる現場で「頼れるパートナー」となります。例えば、注文を受けてから代金を回収するまでの複雑な業務(オーダー・トゥ・キャッシュ)を考えてみましょう。エージェントはこの複雑なプロセスを扱いやすいタスクに分解して処理してくれるため、手作業のミスが減り、驚くほどスムーズに仕事が進むようになります。
エージェントを理解するもう一つの重要なポイントは、話し言葉でプログラムを構築することができるので、誰でもプログラマーになれる点です。エージェントに「こうしてほしい」と言葉で指示を出すだけで、エージェントが目標に向かって動き出します。結果を報告したり、リストを作ったり、必要であれば代わりにプログラミングコードを書くこともできます。この手軽さこそが、AIエージェントがあらゆるビジネス現場に急速に広がっている最大の理由です。これからのアプリケーションやサービス、そして仕事の進め方は、想像力次第でどこまでも進化していくでしょう。ただし、注意点もあります。想像力はエージェントを動かす原動力になりますが、同時に新しい課題も生まれます。これついては、これからの連載の中で詳しくお話ししていきます。
エージェントの振る舞いを決める5つポイント
エージェンシーについて話すときは、エージェントの行動として考えてほしい。「エージェンシー(Agency)」という言葉は、少し難しく聞こえますが、エージェントが「どのように判断し、行動するか」という振る舞いにおける特徴のことです。
この特徴は、どれか一つに決まっているわけではありません。音楽スタジオにあるミキシングボード(つまみやレバーがついた調整机)をイメージしてみてください。音のバランスを微調整するたくさんのダイヤルやスイッチのように、エージェントの振る舞いも細かく調整することができます。 例えば、どこまで任せるか(範囲)、どんなキャラクターにするか(性格)、どの程度人間のチェックを入れるか、といった具合です。このような点を細かく調整することで、私たちは安心して仕事を任せられる「最高の相棒」を作り上げることができます。
エージェントをコントロールするための「5つの主要ポイント」は以下の通りです。
- 自律性:エージェントがどれだけ自分の判断で動けるかを示す、いわば「メインボリューム」です。自律性が高いほど、エージェントは「次は何をすべきか」を自分で考え、優先順位をつけ、もし途中で間違いに気づいたら自分で修正しながら進みます。
- 計画と推論:与えられた権限に応じて、エージェントは次に起こることを予測し、ゴールまでのステップを自ら組み立てます。一から十まで指示を書かなくても、エージェントが自ら「Aの次にBをやって、最後にCで仕上げよう」というような論理的なステップを組み立て、答えを出してくれます。
- 反応と提案:「反応」とは、周りの状況の変化や新しい情報に素早く対応することです。一方で「提案」とは、直接命令されなくても、目標を達成するために進んで行動を起こすことを指します。
- 学習と適応: 関連する情報から学び、状況に合わせてやり方を調整する力です。途中で状況が変わっても、目標からズレることなく、その場に合わせて最適な方法に軌道修正できます。
- 目標の達成: 会議の予約やデータの分析といった具体的なゴールをやり遂げる力です。チャットで指示されて動くこともあれば、システムの見えないところで自動的にタスクを完了させてくれることもあります。
AIエージェントがもたらす大きな変化
私の会社では、CEO主導のもと「効果が見込める場所には、積極的にAIを活用しよう」という方針を打ち出しています。実際に導入を進めてみて分かった成功のコツは、「複数のエージェントをチームとして動かす」ことです。複雑な業務(ワークフロー)を細かく分け、それぞれを得意なエージェントに任せることで、スムーズな効率化を実現することができます。
今の私たちの目標は、エージェントを活用することで単純な手作業を無くし、もっとクリエイティブで価値のある仕事に集中できる環境を作り「人間の可能性を広げること」です。ただ、ここで一つ大きな疑問が出てきます。エージェントは多くの人にとって味方になるのか、それとも仕事を奪う存在なるのかという点です。エージェントは人間を補う存在なのか、それとも人間に代わる存在(代替)なのかという問いについては世界中で議論されていますが、現時点ではまだその答えは分かっていません。
しかし、確信していることが一つあります。それは、日々の仕事にエージェントを上手に取り入れている人ほど、変化の激しいこれからの時代により一層活躍できるということです。だからこそ、エージェントがどのような役割を果たすのかを正しく理解することが、今とても重要なのです。
次回は、エージェントが持つ「自律性のレベル」(どこまで自分で判断して動けるのか)の違いについて、詳しく掘り下げていきます。
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